今回傍聴したのは、詐欺事件。
被告は、JAFのようなロードサービスを提供している側の人間だった。
概要としては、被害者所有車のバッテリーがあがったため、ネットで一番上に表示された被告のロードサービスを利用したところ、必要のない費用を請求された事件。
JAFホームページで確認するとバッテリーあがりの利用料はJAF会員無料、非会員13,130円となっているが、被告が顧客へ請求した金額は、144,000円。ネット検索では最安価格を表示しておきながら、最終的に相場の10倍以上の金額を請求したのだ。
被害者は当然見積に異議を唱えたが、急いでいること、保険が15万円までおりることが分かったこと、被告の"上司"が説得し、まるめこまれてしまったことからこのロードサービスが遂行されてしまったようだ。
また、必要がないにもかかわらず車をレッカー車に乗せ、被害者宅の周りを一周してレッカー車使用実績としている。
ただし、こんな詐欺を行っても被告の懐に入ったのは、144,000円のうち11,700円のみ。なぜか。
ーー被告は、知人に「もうかるよ」と誘われ、このロードサービスの仕事を行うようになった。本来は利益の30%が作業員に入るそうだが、この「知人」に誘われた形で行っているため、その30%の利益を「知人:15% 被告:15%」で分け合うことになっていたのだ。
しかも、その「知人」は自らの利益が多くなるように、普段から見積金額を多くしろとプレッシャーをかけ、事件当日も
「(知人)レッカー使えよ」
「(被告)バッテリーあがりで15万円は無理です」
「(知人)え?なんで?やれよ」
このようなやりとりが電話で行われていた。
ものすごく既視感がある。そう、ビックモーターと同じことが行われていたのだ。ビックモーターも修理の目標金額を14万円にしていたようだが、当事件の見積金額もビックモーターの目標金額とほぼ同じ。
少し調べてみると、車両保険を15万円に設定してある保険が多くあった。顧客が疑念をいだいても、
・そもそも急いでいる。
・ロードサービス業者と顧客の知識の差がある。
・すでに目の前にいるロードサービス業者をつき返して呼び直すハードルが高い。
・車両保険でカバーできれば、自分の懐が痛まない。
このような理由で、ロードサービス詐欺は顧客が疑念を抱いたとしても遂行されやすい。
でも、ここでふと疑問が出てくる。
たった11,700円のために、なぜこんなことをするのか?
最初はお金のためだったはずが、日常的に「知人」のプレッシャーが強く詐欺を遂行することでしかそのプレッシャーから逃れる方法がなかったからだと思う。
ビックモーター社員だって、日々詐欺なしでは達成しない目標を必達せねばならないプレッシャーを常時強く与えられれば、退職の検討をするより、目の前のプレッシャーから逃れることのみ、つまり詐欺を行うことのみに集中するほうが脳のリソースを使わなくて済むのだ。
人間の行動の動機はお金より、目の前のプレッシャーから逃れるためというのは他の犯罪でもよくあることだ。
今回傍聴した事件は、ビックモーターと背景が同じということに加え、その詐欺をしなければ達成できないというプレッシャーがねずみ講という複合構造だったことに驚いたこと、また人間は悪いプレッシャーに負けて行動してしまいやすいことを学んだ。