人はつい、自分が理解できない行動をする人を「あの人は金のためにやっている」と解釈してしまう。
先日、SNSで炎上してしまった被告の裁判を傍聴する機会があったのだが、弁護士と被告を支援する会社社長が熱血すぎて、なぜそこまで自己犠牲を伴う支援をしているのか最初は理解できなかった。
だが、その後被告を支援する会社社長について調べていたら、彼の想いや活動が想像よりはるかに熱いものだったことが分かり、感動している。
元受刑者の就労支援についての著書も出されている有名人だった。
人はつい、自分が理解できない行動をする人を「あの人は金のためにやっている」と解釈してしまう。
先日、SNSで炎上してしまった被告の裁判を傍聴する機会があったのだが、弁護士と被告を支援する会社社長が熱血すぎて、なぜそこまで自己犠牲を伴う支援をしているのか最初は理解できなかった。
だが、その後被告を支援する会社社長について調べていたら、彼の想いや活動が想像よりはるかに熱いものだったことが分かり、感動している。
元受刑者の就労支援についての著書も出されている有名人だった。
今回傍聴したのは、詐欺事件。
被告は、JAFのようなロードサービスを提供している側の人間だった。
概要としては、被害者所有車のバッテリーがあがったため、ネットで一番上に表示された被告のロードサービスを利用したところ、必要のない費用を請求された事件。
JAFホームページで確認するとバッテリーあがりの利用料はJAF会員無料、非会員13,130円となっているが、被告が顧客へ請求した金額は、144,000円。ネット検索では最安価格を表示しておきながら、最終的に相場の10倍以上の金額を請求したのだ。
被害者は当然見積に異議を唱えたが、急いでいること、保険が15万円までおりることが分かったこと、被告の"上司"が説得し、まるめこまれてしまったことからこのロードサービスが遂行されてしまったようだ。
また、必要がないにもかかわらず車をレッカー車に乗せ、被害者宅の周りを一周してレッカー車使用実績としている。
ただし、こんな詐欺を行っても被告の懐に入ったのは、144,000円のうち11,700円のみ。なぜか。
ーー被告は、知人に「もうかるよ」と誘われ、このロードサービスの仕事を行うようになった。本来は利益の30%が作業員に入るそうだが、この「知人」に誘われた形で行っているため、その30%の利益を「知人:15% 被告:15%」で分け合うことになっていたのだ。
しかも、その「知人」は自らの利益が多くなるように、普段から見積金額を多くしろとプレッシャーをかけ、事件当日も
「(知人)レッカー使えよ」
「(被告)バッテリーあがりで15万円は無理です」
「(知人)え?なんで?やれよ」
このようなやりとりが電話で行われていた。
ものすごく既視感がある。そう、ビックモーターと同じことが行われていたのだ。ビックモーターも修理の目標金額を14万円にしていたようだが、当事件の見積金額もビックモーターの目標金額とほぼ同じ。
少し調べてみると、車両保険を15万円に設定してある保険が多くあった。顧客が疑念をいだいても、
・そもそも急いでいる。
・ロードサービス業者と顧客の知識の差がある。
・すでに目の前にいるロードサービス業者をつき返して呼び直すハードルが高い。
・車両保険でカバーできれば、自分の懐が痛まない。
このような理由で、ロードサービス詐欺は顧客が疑念を抱いたとしても遂行されやすい。
でも、ここでふと疑問が出てくる。
たった11,700円のために、なぜこんなことをするのか?
最初はお金のためだったはずが、日常的に「知人」のプレッシャーが強く詐欺を遂行することでしかそのプレッシャーから逃れる方法がなかったからだと思う。
ビックモーター社員だって、日々詐欺なしでは達成しない目標を必達せねばならないプレッシャーを常時強く与えられれば、退職の検討をするより、目の前のプレッシャーから逃れることのみ、つまり詐欺を行うことのみに集中するほうが脳のリソースを使わなくて済むのだ。
人間の行動の動機はお金より、目の前のプレッシャーから逃れるためというのは他の犯罪でもよくあることだ。
今回傍聴した事件は、ビックモーターと背景が同じということに加え、その詐欺をしなければ達成できないというプレッシャーがねずみ講という複合構造だったことに驚いたこと、また人間は悪いプレッシャーに負けて行動してしまいやすいことを学んだ。
本人が亡くなってしまったので裁判にはならないが、先日起こった元関脇元妻が離婚後交際していた既婚男性と猟銃で心中した話が衝撃だった。
その元妻は、過去に実子への虐待で逮捕歴があり、私も見たことがあるのだが虐待動画が出回っている。正気の沙汰ではない様子がそこには映っていた。
一方その元関脇元妻は、セレブ生活を演出するのに長けていたようで、インスタではセレブな生活が投稿されており人気インスタグラマーだったそう。
週刊誌の記事によると、今年5月から交際していた男性へ指名や年齢を偽り、その交際相手から数千万単位で金銭を援助してもらっていたようだ。その後、彼女のウソや逮捕歴が交際相手にバレ、心中することとなったのがこの事件。
高価な衣服・ジュエリー、高級レストランで食事をし、経済力が高い彼の存在・・・
もちろん、それらは欲しかっただろうけれど、彼女が本当に欲しかったものは人からの称賛ではないか。
当たり前だけれど称賛に価する人でないと称賛されない。彼女は称賛に価する人に見せかける能力は高かったが、それを自分の力でなくウソで作り上げた。
人から称賛されたいという欲望はありふれた欲望の一つ。彼女は人より強くその欲望の実現にこだわった。ただし不正をし、実現する方法をとった。
彼女の欲望は表面上達成できたが、自分も交際相手もこの世から去ることになってしまった。
ビックモーター問題から目を離せなくなっているのだけれど、本日のニュースも衝撃的だった。
ビックモーター社員が他社に車の買い取り見積を行っていた顧客に成りすまして他社へキャンセルの連絡を入れていたことが明るみに出てきたのだ。
なりすましといっても異なる複数の客のキャンセル連絡電話を、同じ電話番号で通知してかけており、相手にバレている。
ビックモーター問題の初期の報道では壊れていない箇所を故意に壊して保険請求をした話だったが、他にも次々と信じられない出来事が行われていることが徐々に明るみに出てきた。
「車の壊れていない部分を壊して売り上げを多くする」については、「どうせ顧客は分からないだろうから」という心理が働くことについては想像自体はできる。
顧客は車に詳しくないし、車の内部の状態は顧客が事前に分からないから証明もできないし反論も難しい。
ただ、非通知にもせず顧客になりすまして電話をし他社への査定をキャンセルするのは、証拠がハッキリ残っていることだしそもそも隠そうともしていない。目の前の「ビックモーター社が車を買い取る」この一点を達成するかしないの世界しか存在しないのだ。達成しない恐怖には耐えられないから達成するしか選択肢がない。
この現象は、特殊詐欺加害者で個人情報を握られ逃げられなくなり、恐怖で更なる犯罪を言われるがまま行うしかなくなっている道具と化した末端要員と同じではないか。この末端加害者も、恐怖で指示されたことをやらない選択肢を取ることができない。
どちらも、もう客観的な視点など関係ない領域に入ってしまい、恐怖で操られるゾンビ
になってしまっているのだ。
ビックモーター社は、従業員数5000名を超える大企業で全体的に起こっている現象だ。
社員は、特別な人だろうか。
特殊詐欺に加担してしまった人は特別な人で自分には関係ないと思うかもしれない。それならビックモーター社員は特別な人で自分には関係ないだろうか。
人間は、恐怖に操られてしまったらゾンビになってしまう生き物なのだ。自分も例外ではないことをこれらの事件から学び、なにかおかしいと感じた時に他の選択肢が取れる状況にしておくことが大切だと思う。
全犯罪者の約半数以上は再犯者というのはよく知られている。
再犯プログラムが存在していることも知っているけれど、内容もよく分からないし、実際再犯プログラムが受刑者の更生に助けになっていないと思っていた。
先日、NHKハートネットTVで小さな子供がいる女性受刑者への更生プログラムで、女性受刑者が読み聞かせたCD音声を子供に届ける活動があることを知った。
児童文学作家の大学教授が直々、刑務所へ何度も出向きグループでプログラムを行う。
普段は私語禁止だが、プログラム中はそれぞれ名前で呼び合い私語も許可されている。
まずは、どの絵本を読み聞かせするか本を選ぶところから。
自分の本が決まれば、何度も何度も練習する。絵本を読んだことも読んでもらったこともない受刑者が大半のようだった。
プログラムの終盤には、自分の房に本を持ち込むことが許可され隙間時間に何度も練習する姿が映し出されていた。
最初はどう読めばよいか分からなかった受刑者も、みるみる上達しているのが分かった。
番組内では、受刑者の子供にも取材を行っていた。まだ小学生くらいだろうか。薬におぼれていたころの母親の様子を生々しく語っていた。母親が薬をやっていることをしっかり理解していたのだ。
親が薬物におぼれているという子供へのインタビューなど、一般の私たちが知ることができるとても貴重な映像だった。
依存症は自分の意思でなんともならないのに「もうやりません」の本人の意思にまかせている日本の司法に失望していたけれど、この絵本読み聞かせの取り組みは本人の再犯への誘惑から現実に引き戻す強力な吸引力となっているはずだ。
この12年でプログラムに参加し出所した人は73人。2022年7月末現在、57人が再び罪を犯さず社会復帰しています。
実際に全体の再犯率は60%弱で、母数は少ないとはいえこのプログラム参加者の再犯率は約20%とすれば実際の数字上でも効果が出ていると言える。
更生プログラムに司法が力を入れていないと思っていたが、このような素晴らしい更生プログラムを行っていることが知れて少し希望を持てた。
AIに仕事が奪われるという話は、ことあるごとに話題になるが、今回は仕事ではなく日常生活の中や、様々な手続きを行う側について考える。
先日、海外発だけれど日本でも一定の利用者がいる、あるサービスを利用しようとした。スマホにアプリを入れてから申し込みが必要なサービスだ。
申し込み後、理由が分からないけれど、アプリにログインすることが出来なくなり、申し込み結果の進捗も不明な状態になった。
仕方がないので、WEB問い合わせをするとほどなくメールに返信が届いた。自動返信でよくある問い合わせが記載されていて、それでも分からなければアプリから質問をするようにと記載があった。
そのアプリにログインが出来ないから問い合わせている旨返信したが、おそらく日本語に翻訳された文面で、日本語が分かるスタッフがいないので通訳を使いますといった内容の返信が届いた。
数日待っていれば、日本語の分かるスタッフからの連絡があるのかと思ったが、その後は音沙汰なしだったため、英語で再度質問してみたが、アプリにログインできない前提の回答ではなかった。もうこのサービスを利用するのをあきらめた。
日本でカスタマーサービスのAI化が進んできたとはいえ、電話窓口がなくてもメール窓口はあり、利用者側の意思や質問を最終的に人に伝えることはまだ出来る。
今回の私が体験した海外のサービスは、利用者側の意思や質問自体を人に伝えることすら出来なかった。
よくある質問と解決方法のパターンに当てはまらない場合や、そもそもサービス提供側が想定しているパターンにあてはまらない状況で困った場合は、自分の要望と交渉相手に動いてもらう理由を説明するスキルが今までは大事だった。
ただ、交渉相手の人間が対応してくれないAI時代は別のスキルが必要になってくるはずだ。
先日特殊詐欺の出し子の裁判を傍聴した。
仕事内容は、他人名義のキャッシュカードで動作確認と金を引き出すこと。
報酬は引き出した金の1.2%、引き出せなくても日当3万円。
出し子役を担った被告人は、名前も顔も知らない指示役から電話で
「コインロッカーの中に入れてあるキャッシュカードを出せ」
「ATMでは(顔がばれないよう)カメラに付箋を貼れ」
「1枚ずつ別のATM機でキャッシュカードが使えるかどうか調べろ」
などと指示を受け、まるであやつり人形のように指示通りに行動していた。
複数のキャッシュカードはそれぞれ別人名義であったし、ATM機でキャッシュカードが使用できるかどうかのチェックの際、使用できないカードもあった。
当然、自分は詐欺に加担しているのではないかという思いはあった。
ただ、コンビニのバイトも辞めている。その思いを肯定してしまったら「この仕事」を続けることは出来ないし、コンビニバイトでは得られない高額の報酬を得られなくなってしまう。
被告は「この仕事」を誘ってきた人に聞いた。
「これって詐欺じゃないですよね?」
答えは「詐欺の仕事を紹介するわけないでしょう。詮索しないようにしてください」
被告は言われたとおり、それ以上考えないようにした。
これでコンビニバイトよりラクなのに多額の報酬を得られる。
彼女は捕まった。
今までの前科はなかった彼女。超えてはいけないラインを超える重要な最終判断を聞いてはいけない人に聞き、それ以上考えないようにすることで超えてしまったのだ。
彼女への求刑は懲役3年。
求刑のあと手錠と腰縄をつけられ、刑務官につきそわれて法廷を出た。
大切なジャッジを他人にゆだねようとする行為、それ以上考えないようにする行為も重罪である。