被告と妻は県内とはいえ電車を乗り継ぎ片道2時間ほど離れた別々の農園に配属された。
夫婦は毎日電話をし週末は月に2.3回、妻は2時間近くかけ夫に会いに行っていた。だが妻は同じ農園のカンボジア男性研修生と不倫関係になっていた。
妻の不倫を怪しんでいた被告。ある日妻と電話中に喧嘩をし激昂した妻は、スマホを壁に投げつけ壊した。
妻が壁に投げつけたスマホは完全には壊れておらず通話中のまま、他の同僚の会話が夫に聞こえる状態だった。妻はそんなこととは知らず、通話状態のスマホを放置したまま敷地内にある不倫相手の住む男性寮へ。
そのスマホは同僚の会話の声を拾い、その会話から被告は妻が不倫相手の部屋へ行っていることを知ることとなる。
日頃からの疑いが確信になり、夜遅かったが、被告はナイフを手にタクシーを拾い2時間かけて妻と不倫相手がいる農園へ…
妻と同じベットにいた不倫相手を現実のものとして見てしまった被告は、不倫相手の肺に到達するほど深く強くナイフで刺した。
被害者は死は免れたが重傷を負った。
そんなドラマみたいな事件だった。
殺人未遂なので、この裁判は裁判員裁判。
ナイフで刺したことは争わないが、量刑を決める部分で裁判員には情を抱いて可能な範囲で有利な判決を導くことが弁護士の腕の見せ所である。
弁護士は、夫婦で異国の地に出稼ぎに頑張っていたが妻に不倫されたかわいそうな被告を印象付ける作戦をとったように見えた。
実際、ラオスでは刑法247条で第三者と性的関係を持つ既婚者に対し3ケ月~1年の自由のはく奪、再教育、100万円の科料処罰の対象となるそうだ。
法律的にも文化的にもラオスでは日本より不倫の罪は重く、その分被告は傷ついていることをラオスの現状を説明しながら印象づける。
弁護士の作戦はとてもうまくいっていたと思うし、とてもよい弁護士だとも思った。
私も多少、被告に同情していた。
その後、この事件のキーパーソンである不倫妻が証言台にたった。
妻は、被告とはラオスの会社で同僚だったことから交際に発展したが、妻は被告が既婚者だったことを同棲スタート後に被告の親から聞いて初めて知ったと証言した。
被告の元妻との離婚も成立しない状態で妻は被告との子を妊娠し、ようやく被告と結婚できたのは子が1歳になったころだった。また、被告からDVがあることも語った。
ここで休廷となったが、弁護士が裁判長に「今の証言で弁護士も知らない話が出てきたので、休憩の時間を長めにとってほしい」と交渉。
被告は過去に既婚を隠して子まで作っていたことを弁護士には話さなかったのだろう。
ここで、かわいそうな被告の演出は失敗してしまった。
ちなみに妻の不倫相手の男性も既婚、その妻は妊娠したため帰国。文化的・法律的に不倫の罪が重い環境だったとしても、人々の不倫への欲望を抑えることはできないと悟った。