裁判傍聴から人生を学ぶココロノトモのブログ

傍聴した裁判から学んだ事、考えた事をまとめています

認知症の症状としての性犯罪

性犯罪は、メディアでは規制により、取り上げられる機会が少ないため、
どんな事件が起きているのか、性犯罪の実態や加害者がどのような人物なのか、など私達が目に触れることが少ない。

裁判傍聴を何度かして、一番驚いたことが性犯罪がこんなに起きているんだということ。
そして、こんなに起きているにも関わらず、一般市民にはその情報がおりてこない。

 

裁判を傍聴する中で、いつも「なぜこんな事件が起きたのか」「どうしたら防げたのか」と考えるが、その中で、性犯罪については自分の中で答えが出ないことが多い。

 

今回傍聴した裁判も、その答えが出ない中の一つだった。

 

被告人の今の風貌は長髪に口ひげを生やし、キョロキョロしたり、法廷内の机にひじをついて退屈そうなそぶりを見せたりと、正常とはいえない状態で公判廷が続いた。

本日は母親の情状証人での尋問。


目の前にいる被告からは想像が出来ないが、幼少の頃は運動も勉強も優秀、生徒会の副会長を務めたり、友達も多く活発な性格だったそうだ。
この地域で最も優秀な国立大学まで通い、被告人の弟も別の国立大学院卒のきっとまわりから見たら誰もが羨む家族に見えたと思う。
情状証人を行った母親もきっと自慢の息子だったに違いない。


その息子が大学4年生を境に、徐々に行動に異変が出てきた。
イライラする様子が頻繁におきたり、今まで気にしていた身なりも急に無頓着に・・・。
そして、ふさぎこむような日々が続いた。

大学院の試験の日も家を出たまま、試験を受けずに帰ったり、就職試験もうまくいかなかった。
日に日に部屋に引きこもり、部屋のベッドで過ごすようになった。

 

その後、少し調子が戻ったのか突然出かけたり、就職活動をするといって東京に少し住んだりと行動を起こすようになったが、ある時車で出かけて自損事故を起こし、検査入院。

その頃から顔つきが変化し、別人のように。時を同じくして急に女性に異常な興味を示すようになった。
たびたび失禁をしてしまうことがあったが、最初は戸惑う様子もあったが徐々に失禁しても特に気にするようなそぶりもなくなっていった。

 

そんな中で、白昼街中で女性に抱きついたり、わいせつな行為を行う、
窃盗や器物損害、居酒屋の店員を殴るなど、度重なる犯罪を起こしてしまった。
また、お金も持たずに車でふらっと出ていってしまったり、無賃乗車をして鉄道会社から連絡が入ることがたびたび起こっていた。


一つ一つの事件が起きる度に、母親は色々な施設に連れていったり精神病院に連れて行くが、本人は嫌がっているし、原因も分からないといった日々が続く。

今回、度重なる犯罪でついに起訴された中、2度の精神鑑定でようやく「前頭側頭型認知症」であると診断された。
この病気の症状の一つとして、社会のルールが分からなくなり軽犯罪を起こしやすくなる、失禁をしてしまうといったことがあるようで、被告の行動とも一致する。


「やっと原因が分かった。病気だったんだ」


たびたび遠くにふらっと無賃乗車で出かけて鉄道会社から連絡が入ったり、犯罪を起こしたり、昔は活発で明朗だった息子が今目の前でふさぎ込むなど、理解できない行動をしている。
被害にあった人には、そんなことは関係ないけれど、原因も分からず対策も出来ない中で見えた診断名は、一筋の光だったに違いない。


「前頭側頭型認知症」は難病で、寿命もそれほど長くない病気だそうだ。母親も乳がんを患っていて再発の恐れもあるので、息子と一緒にいられるのはそれほど長くないことを認識しながら、本人と一生懸命生きていきたいと言っていた母親の言葉が印象的だった。

 

この病気は診断が難しく、病気の発見が遅れがちになるそうだ。
まだ20代の息子とその母親。なんとか周りの協力も得てこの後の人生を穏やかに過ごしてほしい。