裁判傍聴から人生を学ぶココロノトモのブログ

傍聴した裁判から学んだ事、考えた事をまとめています

エンジェルフライト 国際霊柩送還士 を読んだら死生観が深まった

ある出来事から、亡くなった人を飛行機で搬送することについて調べていたところ、「エンジェルフライト・国際霊柩送還士」というこの本に出合った。
 
 
現在、日本にはいたるところに外国人がいるし、最近はLCCも充実しているので日本人も安価に簡単に渡航できる。
 
人の往来があればその中で、亡くなる人が出てくるのは当然のことだ。にもかかわらず、その往来の中で亡くなった場合について考えを巡らせたことがない人が大半だと思うが、国際霊柩搬送について私たちは知っておくべきだと思った。
 

著者は佐々涼子さんというノンフィクション作家。

国際霊柩送還専門会社として日本で最初に設立された会社に断られても4年もかけて頼みこみようやく取材が叶いできた本だ。
 

国際間の遺体や遺骨の搬送を専門に取り扱う会社を立ち上げた女性社長を中心に話が進む。

日本は陸続きの国境を持っていないので、国際霊柩送還が発達しておらず、この会社がてがけるまでは専門的な知識を持つ業者がいなかった。会社ホームページの沿革を見ると、法人化が2003年となっている。初めて国際霊柩搬送の会社が日本で出来たのがつい20年前とは、本当に驚いた。
 

国際霊柩搬送で欠かせないのがエンバーミング(腐敗処理)。

亡くなった人の静脈に管を入れて防腐剤を注入することにより、遺体は生前と変わらぬ外見を保つ。ただし、エンバーミングには国際的なライセンスがないので技術が担保されない。緩衝材替わりにトイレットペーパーが敷き詰められていたり、中には臓器を抜き取られた遺体もあり、搬送された柩をあけるまでどんな状況か分からない。
 

海外であること、人の目から隠される死を扱うからこそ闇もある

この本では様々なエピソードが出てくるが、現地で救急病院を徘徊して遺体を知り合いの葬儀社に運んでしまい遺族から高額な料金を請求するなど遺体ビジネスが行われているケースもあること、臓器が抜き取られていたケースもあること、日本に遺体が運ばれた後でも、日本の葬儀社が本来不要な処置をオプションでつけるように仕向けることなどが印象的だった。
遠い外国のできごと、人の目から隠される死であること。二重の死角が遺体ビジネスの土壌を産む。
 

とはいえ、遺体が帰ってこられるのは平和であり当たり前ではない

昔も日本人は海外で大量に死んだが、遺体が日本に帰ってくることはなく遺骨が帰ってくればよいほうで、大半が異国の土となった。遺体が帰ってくる今は平和な状態。
 

国際霊柩送還は、多額の費用と関わる多くの人の想いで実現する

様々な闇の部分もあるけれど、海外から遺体を搬送するには長距離を様々な人の手を渡ることになり、その関係する人はなんとかして遺族と対面させてあげたいという素朴な気持ちに根差しているところが大きい。
 

国際霊柩送還について思いを馳せることで死生観が深まった

この本を通して、国際霊柩送還は単に遺体を運ぶことではなく、亡くなった人が生前に近い姿にし遺族が存分に泣き最後にたった一度のさよならを言うための機会を用意する尊い仕事だと知ることが出来た。
 
また、死は避けられてしまう話題だから深く考える機会がなかなかない。私は裁判傍聴を行っているので事件に触れ、死については他の人よりよく考える方だと思うが、この本を通してまた死を違う角度から見ることが出来たと思う。
 
一般人がなかなか知ることが出来ない国際霊柩送還について知ることができ、この本に出合ってよかった。
2023年3月にはこのエンジェルフライトがAmazon Prime Videoで米倉涼子主演で放送されるのでそれも楽しみにしている。