先月、地図から消された毒ガスの島、広島県の大久野島を訪れた。
大久野島は、瀬戸内海に浮かぶ周囲4.3㎞の小さな島で、戦時には毒ガスを作っていた島という悲しい過去があるが、今は島じゅうにうさぎが生息していて「うさぎの島」の観光地として押し出している。
かわいいうさぎを目当てにカップルや、ファミリーが無邪気にたわむれていて、ちょっとしたインスタ映えスポットもあるので、光と闇で言えば、光の部分が前面に押し出されている。
観光客を呼び寄せる側としては、闇の部分を押し出すよりは光の部分で呼び寄せたいのだろうが、私はうさぎもかわいいけれど、闇の部分「大久野島は、過去毒ガスを作っていて地図から消されていた時期もある」というところに興味を持って行きたくなった。
大久野島に上陸すると、島じゅうにうさぎがいて、やっぱりうさぎはかわいい。道中、かわいいうさぎに癒されながら、目的地の「毒ガス資料館」へ到着。
入場料100円、こじんまりした建物で展示物もたくさんあるわけではないが、こうやって実際に訪れたことで今まで知らなかったことを知り、自分の中に今まで考えたことのない領域が広がる感覚を感じられた。
資料館には毒ガス製造時にまとう貧素な防護服、当時の手帳、写真などが展示してあり、もちろん感じるものはあったのだが、その場ではほとんど自分の頭が整理出来ずに自分はここで何を得たのだろうと咀嚼できずにいた。
旅が終わってこの本を読んだ。
価格:2,640円 |
この著者、樋口健二さんは、戦争、武器、人類の公害による犠牲者たちを多岐にわたり写真におさめている写真家。
戦争や公害など私達が知るとしてもどうしてもマクロ視点からの記録を見聞きすることになるけれど、この本は、犠牲者ひとりひとりからのミクロ視点からで、そこからの構造をなんとなく自分なりに想像し理解出来たのが、大久野島に行った収穫だった。
この「毒ガスの島」という本は、当時毒ガスの影響で病気を患った人の写真と証言が多数掲載されており、そのほとんどの方が肺を患っていた。肺を患っているため、床に臥せることが多く必然的に足腰も弱くなる。
一番私達が知っておかなくてはならないことは、その多くが国からこの毒ガス障害者の認定を受けられていないこと。なぜ、このようなことが起きているのか。
認定されている人たちは、毒ガス工場で陸軍から給料をもらっていた人。陸軍からの給料の一部で傷害救済組合の掛け金を払っていたため、 掛け金のための特別措置という解釈を使って、医療給付を受けられている。
ただ、大久野島では陸軍から直接給料をもらっていた人はそれほど多くなく、学生・女性も多く働いていた。陸軍から直接給料をもらっていた人以外は、掛け金も払っていないので認定を受けられないという構図だ。
「大久野島の毒ガス製造のために病気を患った人を救済する」という本来であればシンプルなことが、救済をするためには新たな法律を作る必要があり、それにはまず国が国際法を無視して毒ガスを作ったというところから認めなくてはならない。
そんなわけにはいかないという国のメンツが優先され、すでにある仕組みを利用してその枠内にあてはまる人だけ救済します、ということ。人の命よりメンツが優先される現実。
本当にひどい話だ。でも、戦争の時の話、今とは別世界と思うかもしれないが、この構図は、今でもそこらじゅうに発生している。例えば仕事上でのトラブルや事故が起こった場合、その人が正社員、派遣社員、委託社員パートアルバイトかなど身分によって救済されないことは現実におこっているだろう。
人の命よりメンツが優先されるのは昔も今も変わらない。